ETIASの強化に向けたFrontexの拡大

ETIASの強化に向けたFrontexの拡大

欧州の陸と海の国境は、Frontex(現在の正式名称は欧州国境沿岸警備機関)によって保護されています。このような広大な海域や長い国境に対応しなくてはならないため、当局がすべての地域を効果的に取り締まり、監視することに苦労してきたのは当然と言えます。このため、欧州連合(EU)は2019年にFrontexを強化する目的で新しい規制を導入すると発表しました。
このEU規制では、さらに1万人の人員を国境警備隊および沿岸警備隊の職員として採用し、訓練することが規定されています。Frontexの採用は現在も続いており、2022年初頭からすでに基本レベルの職員約200人、中級レベルの職員100人が訓練を受けています。

安全保障におけるFrontexの役割

Frontexという名前は、外部国境を意味するフランス語の「Frontières extérieures」に由来しています。Frontexは2004年に設立され、当初は欧州対外国境管理協力機関と呼ばれていました。ポーランドの首都ワルシャワに本部が置かれています。Frontexの目的は、欧州連合(EU)とシェンゲン圏全体の国境管理を合理化し、統合管理体制を改善することでした。これは容易なことではなく、2015年から2016年にかけて欧州で移民危機が勃発すると、欧州委員会は、欧州の国境に到着する圧倒的な数の不法移民に対応するため、同機関の業務拡張を提案しました。この提案は欧州理事会によって承認され、Frontexは欧州国境沿岸警備機関と改名されました。新たに発足したこの機関は、シェンゲン圏のさまざまな国境職員や沿岸警備隊と協力してすぐに作業を開始し、特に2016年にトルコとブルガリアの国境での不法移民問題に対処するのに役立ちました。

欧州の安全保障への関与の強化

2019年のEU規制の受け入れにより、Frontexは国境警備に対してより積極的なアプローチを取り、犯罪やテロとの戦いにより深く関与するようになります。Frontexは、各国の国境・沿岸警備当局の仲介役として、確実に各国間で円滑な協力や情報交換が行えるようにします。Frontexの目標は、欧州全体の安全保障を強化しながらも、市民の権利に影響を与えることなく、合理的で円滑に機能する国境管理システムを構築することです。

FrontexはEUのセキュリティデータベースの多くにアクセスでき、そこに保存された情報を利用して、リスクを分析したり、潜在的な問題が発生する可能性のある場所を予測し、適宜対応したりすることができます。Frontexの権限を強化する2019年規制の主な特徴には、次のようなものがあります。

  • 将来欧州に影響を与える可能性のあるEU域外での渡航や入国情報へのアクセスの拡大。
  • 管理システムの改善とアップグレード。
  • 必要に応じて、欧州の国境検問所の人員配置を増やせる能力。
  • 国境を越えた犯罪行為との戦いとのさらなる関与。

2021年9月、Frontexは国境を越えた犯罪との継続的な戦いでその価値を証明しました。Frontexは、オーストリア当局との共同事業で、欧州中央部や南東部に拠点を置く組織犯罪集団を標的とする作戦を実施しました。EMPACTジョイントアクションデーと呼ばれるこの共同作戦は、密入国や人身売買、文書詐欺に焦点を当てたものです。参加国の警察官や国境警備隊と協力して、Frontexの作戦は大成功を収め、以下の成果につながりました。

  • 密入国の容疑者144名の逮捕
  • 多数の偽造文書の摘発
  • 犯罪行為に使用された13台の車の特定

この成功した1つの作戦だけでも、Frontexが欧州域内の治安維持・改善において、現在、将来ともに重要な役割を担うことを十分に証明することができます。

FrontexとETIAS

ETIAS(欧州渡航情報認証制度)は2022年後半に導入され、翌年半ばまでには欧州以外のパスポート保有者に義務付けられる予定です。ETIASは、申請者に医療情報や犯罪歴を含む個人情報の提供を要求する審査制度です。制度全体は、渡航者に関するすべての情報やデータを保管する中央ユニットから運営され、FrontexはETIASの構築や運営に責任を負います。

Frontexが管理・運営するETIASは、以下のことを行います。

  1. すべてのETIAS申請を確認し、検証する。
  2. データが安全に保管されていることを確認する。
  3. データ保護に関する法令を遵守する。
  4. ETIAS の運営について、一般市民に情報を提供する。

申請書に記入された情報は、セキュリティデータベースと照合され、問題や危険信号がなければ、申請は承認され、申請者のパスポートに電子的にリンクされます。空港や、港湾、国境でパスポートをスキャンすると、ETIASが確認され、パスポート保有者は欧州連合またはシェンゲン圏への渡航が許可されます。

国境管理と人権

基本的人権の保護は、欧州連合基本権憲章に組み込まれており、すべてのEU機関が厳格に遵守する必要があります。必要な基準を確実に満たすため、Frontexは以下を行う必要があります。
20人の基本権担当官と3人の副事務局長を採用する。

基本的人権の適用を監視する体制を確立する。

国境検問所での重大な事件を記録・報告するための効果的なシステムを運用する。

Frontexの全従業員に基本的人権に関する研修を実施する。

2022年の全予算約8億ユーロ(6億7,500万ポンド)は、これらの条件やその他の条件を満たすことにかかっており、Frontexはそれを達成しないとこの割り当ての一部を失うリスクがあります。

最初の防衛線

EUやシェンゲン圏内には国境がほとんど存在しないため、欧州の対外国境を適切に保護し、安全を確保することが非常に重要です。欧州の外周にある国々は自国の国境管理に責任を負っていますが、それだけでは十分でない場合があり、Frontexは追加の支援を提供することができます。近年、欧州域内に入ろうとする不法移民や難民が大幅に増加しており、一部の国境検問所が非常に混雑しています。

Frontexは、人の移動に関する貴重な情報やデータを提供するだけでなく、次のような技術的支援も提供することができます。

  • 巡視艇や航空機などの装備の提供。
  • 特別に訓練されたFrontexスタッフによる国境当局の支援。
  • スペイン、イタリア、ギリシャなどの国々での海上作戦の調整。
  • 空港や港への追加スタッフの提供。

欧州には適切な内部国境がないため、イタリアからウクライナまで盗難車で運転したり、人身売買の被害者をフランスからスウェーデンへ連れて行ったりすることが理論上可能です。このため、渡航者に過度の遅れを生じさせることなく、欧州の外部国境やアクセスポイントを可能な限り安全なものにすることが非常に重要です。

結論

Frontexは、欧州に影響を与える可能性のある人々の移動や犯罪行為に関するサポートスタッフと情報の両方を提供しているため、欧州への不法入国に対する最初の防衛線となっています。Frontexの努力により、欧州の国境管理担当者は、情報を共有し、パフォーマンスを向上させるためのトレーニングを受け、国境を越えた犯罪やテロ活動と戦うのに役立つ最新の機器を利用できるようになりました。

Frontexを運営するための予算は年々大幅に増加しており、今年度は約8億ユーロ(6億7,500万ポンド)に達しました。スタッフの数も大幅に増え、今後5年間でほぼ1万人に達すると予想されています。

予算と人員の増加や、最新の技術や情報システムへのアクセスにより、Frontexは確実に欧州の国境管理や安全保障を大幅に改善できるはずです。